北アイルランドのオールド・ ブッシュミルズ蒸留所、400年以上の歴史を感じよう

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400年以上の歴史をもつ北アイルランドのオールド・ブッシュミルズ蒸留所。ファンの多いアイリッシュ・ウイスキーですが、アイルランドの蒸留所は3箇所のみ。その中で最古のオールド・ブッシュミルズ蒸留所で、歴史を感じながら、アイリッシュ・ウイスキーを味わってみませんか?

北アイルランド

アイルランドは、1920年のアイルランド統治法によって、北と南に分かれました。

北はプロテスタントを信仰する方が多く、南はカトリックだったこと、北にはもともとグレートブリテン島からの移民が多かったこともあって、英国領でいた方が得と考えた人々によって、残留が決まりました。

ですから、通貨も北と南では違ってきます。北アイルランドはポンド、アイルランドはユーロを使用しています。

ツアー企画は、アイルランド島全域を回るコースが多いので、ポンドとユーロの両方を用意したほうが良いでしょう。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所は、北アイルランドにありますので、ポンドをご用意下さいね。

じゃがいも好き

アイルランドの食事では、ステーキの付け合せに、ポテトコロッケ、フライドポテト、マッシュポテトと、じゃがいも尽くしですが、何故じゃがいもばかり食されているのでしょう。

それは17世紀にさかのぼります。初代護国卿(政治、軍事の最高責任者)となったオリヴァー・クロムウェルが、部下にアイルランドの土地を与え、地主となった軍人たちは、アイルランド人に小麦を育てさせ、それを納めさせました。

アイルランドの工業生産は、イギリス本土を守るために政府が認めなかったので、アイルランドでは、農業をするしかありませんでした。

一粒の小麦も手に入れることが許されなかったアイルランド人は、自分たちの食材として、じゃがいもを育てて食していました。

じゃがいもの不作期間が4年間あり、多くのアイルランド人がよその国へ行ってしまったりと、多くの出来事がありましたが、アイルランド人にとって、じゃがいもは不滅です!

オールド・ブッシュミルズ蒸留所

北アイルランドのアントリム州西部、ブッシュミルズ村にあるのが、オールド・ブッシュミルズ蒸留所です。

蒸留所の西側にブッシュ川が流れていて、昔はその川の水を利用して製粉所(ミル)が何軒かありました。ブッシュにあるミルということで、それが地名になったようです。

蒸留酒の免許を与えられる

1603年にエリザベス1世が亡くなると、デューダー家が断絶したので、ヘンリー7世の血を引く、当時スコットランド王であったジェームス6世が、ジェームス1世として、イングランド王とアイルランド王に即位しました。

英国からブッシュミルズ村を統治しに赴任していた、トーマス・フィリップスが、1608年にアイルランド総督から、蒸留酒の免許を与えられたのです。

このアイルランド総督とは、イングランド王国の支配下であるアイルランドにおいて、君主の名代を務める役割で、免許を与えたのは、1605年から任についていたアーサー・チチェスター男爵です。

トーマス・フィリップスはこの免許をCo. Antrimと地主に再交付しました。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所が、1608年とうたっているのは、蒸留所の創業としてではなく、あくまでも村に与えられたライセンスであり、村全体としての蒸留を始めた年として、記録しているのではないでしょうか。

SINCEは直訳が以来だから、1608年以来免許をもらって蒸留しています!という証なのではないかと考えます。

密造酒ポチーン

というのも、これまでにお酒は造られていなかったのかというとそうではなく、アイルランドでは、6世紀ころから銅鍋で蒸留酒を密造していました。

麦類を主に蒸留していましたが、17世紀頃からはじゃがいもを蒸留して造り、アルコール度数が高いもので、80度あるものもあったとか...。中には粗悪品も出回り、エチルアルコールを混ぜたものを飲んで、目が潰れた者もいたようですよ。

各家庭で蒸留していて、お客さんが見えた時に一杯やりながら、語り合うのが楽しみだったようです。アイルランドでは、ポチーン(poitin)と呼ばれ、長いこと密造が行われていました。

侵略されつづけた時間

1784年に創業されるまで、176年の時を費やしていますが、それには理由があります。

初代護国卿オリヴァー・クロムウェルが、カトリック同盟の攻撃のために、新型軍を引き連れて侵攻を始めたのです。

4年に及ぶ攻撃で、アイルランド人の人口はほぼ半減し、地主だった者も土地を奪われ、小作人になり下がったようです。

英国とアイルランドの戦いも、国と国というよりも、カトリックとプロテスタントの戦いで、1691年の鎮圧でアイルランドのカトリック信者は儀式を禁じられ、公職にもつけなくなりました。

すべてにおいて制約を受け、差別された支配が約2世紀にもわたり、続きます。

オリヴァー・クロムウェルが任についたのが1653年。英国にすべての麦を送ってしまうために、それ以後麦類はアイルランド人の自由にはなりませんでした。

麦類を原料とするウイスキーが蒸留できていたのでしょうか?定かではありません。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所、創業

アイルランド議会が自治権を認められた、アイルランド憲法が制定されたのが、1782年。

そしてオールド・ブッシュミルズ蒸留所は、1784年に正式に登録されます。

1889年パリで行われた、万国博覧会の酒類コンテストで金賞を受賞。

世界にその名を知らしめ、20世紀前半のモダニズム文学の重要な作品といわれている、ジェイムズ・ジョイスのユリシーズにも、ブッシュミルズのウイスキーが登場するまでになりました。

世界へ羽ばたく

1885年に火事で焼失しましたがすぐに建て直し、1890年には汽船を運行してフィラデルフィア、ニューヨークへウイスキーを輸出し始めました。途中、シンガポール、香港、上海、横浜にも寄港しています。

明治23年の日本は、東京の帝国ホテルが創業したり、小泉八雲が来日、東京都内で一般の電話が開通するなど、日々いろいろなことが起こった年でした。

日本禁酒会が創立された年でもあるので、日本人はアイリッシュ・ウイスキーを飲めたのでしょうか。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所は、その後もアメリカへの輸出を続け好評でしたが、禁酒法が施行されると、大打撃を受けながらも機会を待ち、法律が撤廃される時期を見越して再開しました。

世界大戦でやむなく休止するも、戦後は再開してますます人気となっていきました。

1608年をあくまでも記念の年として、2008年には400年をお祝いしました。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所見学ツアー

受付で入場料を支払った後は、映写室でオールド・ブッシュミルズの歴史や製造工程を見ます。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所のポットスチルは、ネックが細長い小型のものを使用。

ポットスチルはネックが長いほど、ウイスキーは軽くなるので、ブッシュミルズではこのスチルにこだわって蒸留しています。

アメリカンオーク樽のバーボン樽やスペイン産のオロロソシェリー樽を使って熟成させています。

時には、ポートワイン、マディラワイン、ラムの熟成に使われた樽を使用することもありますが、それもマスターディスティラーのおメガネにかなったものだけ。

品質の良い樽だけを選ぶことによって、いいウイスキーが造れるのです。

通常のツアーで試飲できるウイスキーは1種類ですが、噂によるとここでしか試飲、購入することができない12年ものがあるとか...。楽しみですね。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所(Old Bushmills Distillery)
住所:
2 Distillery Rd,Bushmills,County Antrim BT57 8XH U.K
営業時間:
10:00~16:45
アクセス:
ベルファストから車で約1時間13分
定休日:
日、開催日でも予告なく閉鎖することもある
電話番号:
+44 28 2073 3218
料金:
予約制、大人1人£7.50、18歳以上の学生ID必要£6.50、60歳以上£6.50、8歳~17歳£4.00、8歳未満は訪問はできるがツアーには参加できない、歩行困難な方や車椅子の方もツアーに参加できません、
予約は、reservations.bushmills@bushmills.comにて行う。

まとめ

アイルランドの歴史を知ると、アイリッシュ・ウイスキーがここに残っていることへ感謝せずにはいられません。

400年以上、戦ってきたことへ乾杯。

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