北アイルランドのオールド・ ブッシュミルズ蒸留所、400年以上の歴史を感じよう

9,057

views

0

400年以上の歴史をもつ北アイルランドのオールド・ブッシュミルズ蒸留所。ファンの多いアイリッシュ・ウイスキーですが、アイルランドの蒸留所は3箇所のみ。その中で最古のオールド・ブッシュミルズ蒸留所で、歴史を感じながら、アイリッシュ・ウイスキーを味わってみませんか?

北アイルランド

アイルランドは、1920年のアイルランド統治法によって、北と南に分かれました。

北はプロテスタントを信仰する方が多く、南はカトリックだったこと、北にはもともとグレートブリテン島からの移民が多かったこともあって、英国領でいた方が得と考えた人々によって、残留が決まりました。

ですから、通貨も北と南では違ってきます。北アイルランドはポンド、アイルランドはユーロを使用しています。

ツアー企画は、アイルランド島全域を回るコースが多いので、ポンドとユーロの両方を用意したほうが良いでしょう。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所は、北アイルランドにありますので、ポンドをご用意下さいね。

じゃがいも好き

アイルランドの食事では、ステーキの付け合せに、ポテトコロッケ、フライドポテト、マッシュポテトと、じゃがいも尽くしですが、何故じゃがいもばかり食されているのでしょう。

それは17世紀にさかのぼります。初代護国卿(政治、軍事の最高責任者)となったオリヴァー・クロムウェルが、部下にアイルランドの土地を与え、地主となった軍人たちは、アイルランド人に小麦を育てさせ、それを納めさせました。

アイルランドの工業生産は、イギリス本土を守るために政府が認めなかったので、アイルランドでは、農業をするしかありませんでした。

一粒の小麦も手に入れることが許されなかったアイルランド人は、自分たちの食材として、じゃがいもを育てて食していました。

じゃがいもの不作期間が4年間あり、多くのアイルランド人がよその国へ行ってしまったりと、多くの出来事がありましたが、アイルランド人にとって、じゃがいもは不滅です!

オールド・ブッシュミルズ蒸留所

北アイルランドのアントリム州西部、ブッシュミルズ村にあるのが、オールド・ブッシュミルズ蒸留所です。

蒸留所の西側にブッシュ川が流れていて、昔はその川の水を利用して製粉所(ミル)が何軒かありました。ブッシュにあるミルということで、それが地名になったようです。

蒸留酒の免許を与えられる

1603年にエリザベス1世が亡くなると、デューダー家が断絶したので、ヘンリー7世の血を引く、当時スコットランド王であったジェームス6世が、ジェームス1世として、イングランド王とアイルランド王に即位しました。

英国からブッシュミルズ村を統治しに赴任していた、トーマス・フィリップスが、1608年にアイルランド総督から、蒸留酒の免許を与えられたのです。

このアイルランド総督とは、イングランド王国の支配下であるアイルランドにおいて、君主の名代を務める役割で、免許を与えたのは、1605年から任についていたアーサー・チチェスター男爵です。

トーマス・フィリップスはこの免許をCo. Antrimと地主に再交付しました。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所が、1608年とうたっているのは、蒸留所の創業としてではなく、あくまでも村に与えられたライセンスであり、村全体としての蒸留を始めた年として、記録しているのではないでしょうか。

SINCEは直訳が以来だから、1608年以来免許をもらって蒸留しています!という証なのではないかと考えます。

密造酒ポチーン

というのも、これまでにお酒は造られていなかったのかというとそうではなく、アイルランドでは、6世紀ころから銅鍋で蒸留酒を密造していました。

麦類を主に蒸留していましたが、17世紀頃からはじゃがいもを蒸留して造り、アルコール度数が高いもので、80度あるものもあったとか...。中には粗悪品も出回り、エチルアルコールを混ぜたものを飲んで、目が潰れた者もいたようですよ。

各家庭で蒸留していて、お客さんが見えた時に一杯やりながら、語り合うのが楽しみだったようです。アイルランドでは、ポチーン(poitin)と呼ばれ、長いこと密造が行われていました。

侵略されつづけた時間

1784年に創業されるまで、176年の時を費やしていますが、それには理由があります。

初代護国卿オリヴァー・クロムウェルが、カトリック同盟の攻撃のために、新型軍を引き連れて侵攻を始めたのです。

4年に及ぶ攻撃で、アイルランド人の人口はほぼ半減し、地主だった者も土地を奪われ、小作人になり下がったようです。

英国とアイルランドの戦いも、国と国というよりも、カトリックとプロテスタントの戦いで、1691年の鎮圧でアイルランドのカトリック信者は儀式を禁じられ、公職にもつけなくなりました。

すべてにおいて制約を受け、差別された支配が約2世紀にもわたり、続きます。

オリヴァー・クロムウェルが任についたのが1653年。英国にすべての麦を送ってしまうために、それ以後麦類はアイルランド人の自由にはなりませんでした。

麦類を原料とするウイスキーが蒸留できていたのでしょうか?定かではありません。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所、創業

アイルランド議会が自治権を認められた、アイルランド憲法が制定されたのが、1782年。

そしてオールド・ブッシュミルズ蒸留所は、1784年に正式に登録されます。

1889年パリで行われた、万国博覧会の酒類コンテストで金賞を受賞。

世界にその名を知らしめ、20世紀前半のモダニズム文学の重要な作品といわれている、ジェイムズ・ジョイスのユリシーズにも、ブッシュミルズのウイスキーが登場するまでになりました。

世界へ羽ばたく

1885年に火事で焼失しましたがすぐに建て直し、1890年には汽船を運行してフィラデルフィア、ニューヨークへウイスキーを輸出し始めました。途中、シンガポール、香港、上海、横浜にも寄港しています。

明治23年の日本は、東京の帝国ホテルが創業したり、小泉八雲が来日、東京都内で一般の電話が開通するなど、日々いろいろなことが起こった年でした。

日本禁酒会が創立された年でもあるので、日本人はアイリッシュ・ウイスキーを飲めたのでしょうか。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所は、その後もアメリカへの輸出を続け好評でしたが、禁酒法が施行されると、大打撃を受けながらも機会を待ち、法律が撤廃される時期を見越して再開しました。

世界大戦でやむなく休止するも、戦後は再開してますます人気となっていきました。

1608年をあくまでも記念の年として、2008年には400年をお祝いしました。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所見学ツアー

受付で入場料を支払った後は、映写室でオールド・ブッシュミルズの歴史や製造工程を見ます。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所のポットスチルは、ネックが細長い小型のものを使用。

ポットスチルはネックが長いほど、ウイスキーは軽くなるので、ブッシュミルズではこのスチルにこだわって蒸留しています。

アメリカンオーク樽のバーボン樽やスペイン産のオロロソシェリー樽を使って熟成させています。

時には、ポートワイン、マディラワイン、ラムの熟成に使われた樽を使用することもありますが、それもマスターディスティラーのおメガネにかなったものだけ。

品質の良い樽だけを選ぶことによって、いいウイスキーが造れるのです。

通常のツアーで試飲できるウイスキーは1種類ですが、噂によるとここでしか試飲、購入することができない12年ものがあるとか...。楽しみですね。

オールド・ブッシュミルズ蒸留所(Old Bushmills Distillery)
住所:
2 Distillery Rd,Bushmills,County Antrim BT57 8XH U.K
営業時間:
10:00~16:45
アクセス:
ベルファストから車で約1時間13分
定休日:
日、開催日でも予告なく閉鎖することもある
電話番号:
+44 28 2073 3218
料金:
予約制、大人1人£7.50、18歳以上の学生ID必要£6.50、60歳以上£6.50、8歳~17歳£4.00、8歳未満は訪問はできるがツアーには参加できない、歩行困難な方や車椅子の方もツアーに参加できません、
予約は、reservations.bushmills@bushmills.comにて行う。

まとめ

アイルランドの歴史を知ると、アイリッシュ・ウイスキーがここに残っていることへ感謝せずにはいられません。

400年以上、戦ってきたことへ乾杯。

この記事を読んだあなたにオススメの記事
  • アイルランド・ダブリンで人気のアイリッシュパブおすすめ5選

    ロンドンがティーサロン文化なら、隣国アイルランドのダブリンはパブ文化。お酒を片手に、おつまみや軽食が気軽にいただける社交の場です。お酒の定番はギネスビール。同じビールでも、お店の雰囲気によって味わいは変わるもの。そこで、見た目がおしゃれなダブリンのパブを5店紹介しましょう。

  • アイルランド基本情報 【言語・お役立ち会話編】

    フレンドリーな国民性や豊かな自然、治安の良さなどから、アイルランドは英語を学ぶための留学先として人気があります。実際現地で使われている言葉はどのようなものなのでしょうか?アイルランド英語って??第一公用語のゲール語を使う機会はあるの??…など、気になるアイルランドの言語についてご紹介します♪

  • アイルランド基本情報 【お金編】

    旅行中、お金のトラブルに巻き込まれてしまったら…考えただけでゾッとする最悪の事態!!しっかりと計画を立てお金を管理することは、海外旅行を楽しむための最大のポイントともいえます。今日はアイルランドの通貨、両替方法、チップのことなど…気になるアイルランドのお金事情についてのご紹介です♪

  • アイルランド基本情報 【交通手段編】

    アイルランド全土に点在する素敵な見どころ。あれもこれも見てみたい!!そんなとき、限られた滞在期間でできるだけ多くの名所を巡るには、効率の良い移動手段を見つけることが大切です。今日はそんなあなたにお役立ち!気になるアイルランド国内での交通手段についてご紹介します♪

  • アイルランドの人気観光スポット巨人の通り道(ジャイアンツ...

    北アイルランドの海岸に「巨人の通り道」という名の芸術的な自然の造形があります。数万本の六角柱が海からそそり立つ景色は、まるで巨人が歩いているかのよう。この景色が全て自然の仕業とは思えない…誰もがそう感じるジャイアンツコーズウェーをご紹介します。

  • アイルランド南部コークの魅力とイングリッシュマーケット大...

    アイルランド南部の都市コークには不思議な名前の市場があります。その名はイングリッシュマーケット。アイルランドの市場なのになぜイングリッシュ?その名の由来は?そこで売られているものは何でしょうか(笑)?旅をして分かったこの街、そして市場の魅力をお届けします!

このエリアの新着記事
  • アイルランド基本情報 【お水事情編】

    大自然や歴史的な建造物が融合する美しい国アイルランド。観光で訪れるなら、体調は万全にしていきたいですよね。そこで今回は体調管理に大切なお水についてまとめました!

  • アイルランド基本情報 【ビザ・大使館・税関編】

    エメラルドグリーンの島と評され、豊かな自然や世界遺産、ダブリン城をはじめとする歴史ある建物などが数多く存在するアイルランド。日本からの直行便はありませんが、ヨーロッパ各国を経由して入国が可能です。そこで今回は、アイルランドのビザ・大使館・税関についてまとめてみました。

  • アイルランド基本情報 【気候・服装編】

    アイリッシュ海を挟んでグレートブリテン島の西側に浮かぶアイルランド。暖流の影響で思ったよりも温暖な気候です。キルト文化が根付くアイルランドの気候と訪れる際の服装について紹介しましょう。

  • アイルランド基本情報 【祝日・祭日・ビジネスアワー編】

    アイルランドはグレートブリテン島の西側に位置し、独特の歴史と文化を持つ緑豊かな国です。ここではそんなアイルランドの祝日・祭日とビジネスアワーについて紹介しましょう。アイルランドを訪れたら、地元の人と一緒に祝日・祭日を楽しんでください!

  • アイルランド・ダブリンで人気のアイリッシュパブおすすめ5選

    ロンドンがティーサロン文化なら、隣国アイルランドのダブリンはパブ文化。お酒を片手に、おつまみや軽食が気軽にいただける社交の場です。お酒の定番はギネスビール。同じビールでも、お店の雰囲気によって味わいは変わるもの。そこで、見た目がおしゃれなダブリンのパブを5店紹介しましょう。

  • アイルランド南部コークの魅力とイングリッシュマーケット大...

    アイルランド南部の都市コークには不思議な名前の市場があります。その名はイングリッシュマーケット。アイルランドの市場なのになぜイングリッシュ?その名の由来は?そこで売られているものは何でしょうか(笑)?旅をして分かったこの街、そして市場の魅力をお届けします!

  • アイルランドの人気観光スポット巨人の通り道(ジャイアンツ...

    北アイルランドの海岸に「巨人の通り道」という名の芸術的な自然の造形があります。数万本の六角柱が海からそそり立つ景色は、まるで巨人が歩いているかのよう。この景色が全て自然の仕業とは思えない…誰もがそう感じるジャイアンツコーズウェーをご紹介します。

  • アイルランド基本情報 【コンセント・電圧編】

    美しい緑に囲まれたアイルランド。本記事では、アイルランドを旅する前に知っておきたい、アイルランドの電圧やコンセントについての基本情報をまとめました。

  • アイルランド基本情報 【お金編】

    旅行中、お金のトラブルに巻き込まれてしまったら…考えただけでゾッとする最悪の事態!!しっかりと計画を立てお金を管理することは、海外旅行を楽しむための最大のポイントともいえます。今日はアイルランドの通貨、両替方法、チップのことなど…気になるアイルランドのお金事情についてのご紹介です♪

  • アイルランド基本情報 【交通手段編】

    アイルランド全土に点在する素敵な見どころ。あれもこれも見てみたい!!そんなとき、限られた滞在期間でできるだけ多くの名所を巡るには、効率の良い移動手段を見つけることが大切です。今日はそんなあなたにお役立ち!気になるアイルランド国内での交通手段についてご紹介します♪

今週の人気記事