地下の聖地・第二のエルサレム―エチオピア・ラリベラの岩窟教会群―

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エチオピア北東部の高原地帯にある、ラリベラの岩窟教会群。現在も11の教会が残っており、すべて地下通路で結ばれている。12世紀のはじめ、当時エチオピアを治めていたキリスト教国ザグウェ朝・第7代国王のラリベラは、この地を第二のエルサレムにするようにというお告げを受けた。岩に彫られた教会は世界的にも珍しく、一見の価値がある。どのような場所なのか、簡単に紹介していく。

「ハチに選ばれた者」ラリベラ

出典: tabippo.net

ラリベラの岩窟教会群がつくられたのは、12世紀初めのことである。当時エチオピアを治めていたのは、キリスト教国のザグウェ朝だった。ザグウェ朝の第7国王の名「ラリベラ」は「ハチに選ばれた者」という意味だが、これは生まれたばかりの皇太子のまわりをハチがびっしり取り囲んだことに由来する。

これを見た人々は、「この皇太子には偉大な運命が待っている」と信じて疑わなかった。もし現代日本で生まれたばかりの赤ん坊にハチがたかったら、偉大な運命どころではない。大騒ぎになり、殺虫剤がまかれることになるだろう。そう想像するとおかしい。

第二のエルサレムに

ラリベラが第7国王に就任したときには、イスラム勢力がイスラエルの地を席巻していた。そのため聖地エルサレムへと至る道はイスラム教徒に占領されており、巡礼ができない状態となっていたのだ。

出典: yuuma7.com

そんなときラリベラの夢枕に神が現れ、この地を第二のエルサレムにするようお告げが下った。ただしそれには、「建物は一個の岩で作ること」という条件がついていた。こうしてできたのがこの岩窟教会群である。12世紀から13世紀にかけての約120年間で、今も残る11個の教会が完成されたが、これは、当時としては驚くべき工事期間の短さだ。

伝説では、疲れ切った工匠たちにかわって、毎晩天使たちが作業を続けたためにまたたくまに工事が完了したとされているが、実際は、パレスチナやエジプトの工匠たちが汗水をたらし、赤茶けた凝灰岩を文字通りうがって作り上げた。

11の教会

聖堂はヨルダン川をはさんで北側と南側にそれぞれ5つずつあり、少し離れた丘の上に、もうひとつゲオルギウス教会という聖堂がある。ヨルダン川は、キリストがヨハネから洗礼を受けた川にちなんで名づけられた川であり、6月~9月の雨期には水をたたえるが、乾期にはからからに乾いている。

1520年から1526年、エチオピアに滞在していたポルトガルの宣教師フランシスコ・アルヴァレスは、この岩窟教会群の様子について、「いくらその様子を説明しても、ヨーロッパでは信じてもらえないだろうと思った」と書いている。

「これについてはもう書きたくない。
いくら書いても結局だれも信じてくれないような気がするのだ」

聖ゲオルギウス教会

教会群の中でも特に印象的なのは、エチオピアの守護聖人、聖ゲオルギウスにささげられた聖ゲオルギウス教会である。屋上に刻まれている二重の十字架がひときわ目を引く。
ゲオルギウスは3~4世紀頃の伝説的な聖人で、もとはローマ帝国の軍人だったが、時の皇帝ディオクレティアヌスの命令に反しても自らの信仰を貫いたため、さまざまな拷問を受けた末殉教した。

ゲオルギウスには、竜を倒し、囚われの王女を救い出したという逸話が残るが、竜は異教を、王女はキリスト教を意味しているといい、ゲオルギウスはキリスト教徒にとって正義の象徴として崇拝されている。

このゲオルギウス教会は、10番目の聖堂が完成した後、ゲオルギウスが憤怒の形相でラリベラ王の夢に現れ、自分にも聖堂をささげよと命じた結果作られた教会である。彼も自分の名を冠した教会がほしかったのだろうが、子供じみた要求にどこか人間味を感じる。

エチオピアとキリスト教

エチオピアにキリスト教が受容されたのは4世紀のことで、それ以来、キリスト教は、皇帝とならびエチオピア社会と政治を支える柱だった。この教会群は現在でも、多くのキリスト教徒の信仰を集めており、キリストの生誕を祝うクリスマスの大祭には、エチオピア全土から6万人もの巡礼者がこの地を訪れる。

今も信仰の地として生き続けるこのラリベラの岩窟教会群、たとえキリスト教徒ではなくても、一度訪れる価値はあるだろう。

ラリベラの岩窟教会群 (Rock-Hewn Churches, Lalibela)
住所:
Lalibela, Ethiopia
アクセス:
アディスアベバからラリベラまで飛行機で約1時間。ラリベラから徒歩、あるいはロバに乗っていく。
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